第三回SPRING起業セミナー開催!VOl.2
昨年の10月18日(木曜日)に、第3回目となるSPRING起業セミナーを開催しました。
今回の記事でも、2回にわたり、1時間30分にわたる濃密なお話の一部をご紹介いたします。(後編)
今回は、セミナーの後半部分、伊藤達生さんの伝統建築にかける想いや、
川崎町で起業したことの意義等についてご紹介いたします。
ぜひ最後までご覧ください!
無垢材を用いた伝統建築の意義
現在、木造住宅の95%程はプレカットという工場で作られた構造材が扱われており、
無垢材を用いた伝統建築の市場自体は小さく、伊藤さんご自身から拡げていく必要を感じているとのこと。
集成材や新建材を使った在来工法に比べると、坪単価ではどうしても割高になってしまう無垢材。
割高な無垢材を用いた伝統建築を使っていただくには、その意義をしっかりと施主の方に理解していただく必要があります。
伝統建築を用いる意義は、大きく2つある、と伊藤さんにお話いただきました。
1つめは、100年以上保つ、ということ。
現代は、自分の代で土地と家を住宅ローンを組んで購入し、次の世代はまた新たに家を建て直すことが一般的な流れとなっています。
この点について、家が100年以上丈夫に保つのだとしたら、次々と新しい家を建てる必要はないはず、と伊藤さんは考えます。
100年以上保つのであれば、住む人が変わっても、使い続けることができるのであれば、その家は社会的なインフラになる。
個人が家を建てるのだとしても、30年住んで引っ越したらその後に別の人が住めばいい。
今は川崎町でも「空き家バンク」制度で空き家の有効活用を進めていますが、そういう流れがあれば、100年以上長持ちする家を建てることにも意義が生まれてきます。
伝統建築が森林保全に繋がるということ
2つには、山を守る、森林保全につながるということ
実際にカンナで木材を薄く削るところを実演していただきました。
これだけあちこちに杉林が見られる、ということは生態系にとっては異常な状態だそうです。
杉は葉が落ちないから腐葉土も作らない。地面に光があたらない。根が浅いから雨が降ると土砂崩れにつながる。
本来はナラやブナなどの落葉広葉樹が植わり、葉も実も落ちているような状態が本来の生態系。
川崎町は釜房ダムがあり、仙台の水源地でもあるため、森林の保全は絶対に必要だと伊藤さんは考えます。
杉山がもたらす問題は他にも色々と挙げられますが、生態系としてあるべき状態に戻すには、
とにかく人間が植えてしまった杉を切ってきちんと使う必要があります。
あまりにも植木された杉林が多すぎます。社会の資産としての広葉樹林の価値を再考すべきです。
削った木材は、向こう側が透けるくらい、薄く繊細に削られていることがわかります。
例えば、12cm角の木材3m分は市場価格で3000円程度ですが、山主さんに落ちるのはその4%、120円程度です。
40年かけて育った木を100本売って身入りが12万円程度だとしら、労力を割いて管理する気にはなれない。
これでは誰も山に入って原材料となる木を提供しようとはなかなか思えません。
放置すると山は荒れていく。
杉を材料に使って、しっかり生産者の元へお金を落としてくれる建築業者が必要なのです。自分はこの点でしっかり生産者に貢献していく方法を考え、実践していきたい。
伊藤さんが個人的に、伝統建築を良いと思っているだけの状態では他人に受け入れていただけない。
伝統建築で、無垢材を使って家を建てることが世の中に、社会に、どういうメリットがあるのか、
というのはきちんと説明しなくてはいけないと考えているそうです。
伊藤建築のこれから
実はこのように、今の時代に伝統建築で家を建てることの社会的意義を伝えられるようになったのは、
川崎町に移住してきてからのことだそうです。
今は、古関に住んでいらっしゃり、杉山がまわりにあるような木材の生産地のど真ん中です。
自分で山に入って丸太を切って、良い建築を作り、材料費としてしっかり山主さんにお金を払っていく仕組みを作ること。
そういったご自身の想いや技術が、お客様のみならず、地域や自然に還元されているのだと思います。
実際に、川崎町にある廃校利用施設「イーレ!はせくら王国」にあるワイナリー「Fattoria Al Fiore」も、伊藤さんが手がけた建築です。
Fattoria Al Fioreの記事はコチラ
イーレ!はせくら王国の記事はコチラ
中に入ってみると、本当に心地の良い木の香りが漂い、照明も合わさり素晴らしい空間になっています。
ぜひ、お立ち寄りしてみてはいかがでしょうか。
最後に伊藤さんから、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが提唱している、
ツリー(tree)とリゾーム(rhizome)という概念を紹介いただきました。
森林をイメージしたときに、ツリーを樹木とすれば、リゾームというのは、
樹木の周りにあるような苔や菌類などの小さくて細かい生態系を指しています。
ドゥルーズは、これまでの社会は伝統的な上意下達のピラミッド型組織が中心となっていたが、
それだけでは行き詰まっていく。森林では苔は森一帯に広がっていると言われているものの、
これからの社会はリゾームのような存在がとても大切な世の中になっていく、と言われています。
伊藤さんは「これからは大きな組織だけではなく、個々の個人事業主や強みを持った一人一人が
ネットワークを形成し、連帯していくことが意味を持っていく社会だと思います。実際、川崎町では
こうした異業種との交流や連携が次々と起きています。
伊藤建築も一つのリゾームを形成する個体だと思っているので、
この川崎町でみなさんと連携していけたらと考えています。」と締めくくられました。
伊藤さんは、今の日本の建築への考え方や森林破壊等の問題に対して、
明確な課題意識を持っている点が印象的でした。
その強い想いが、こだわり抜いた伝統建築の技術として表現され、
施主の方々に喜んでいただけるのだと思います。伊藤さんの想いがあるからこそ、
少々割高でも喜んで依頼する方がいらっしゃるのだと思います。
みなさんも、胸に秘めた想いがあるのであれば、
まずは周囲の方々にお話してみるのはいかがでしょうか。
思わぬところから、賛同者や協力者が現れるかもしれませんよ。